第15&第14回調べラボレポート
みなさんこんばんは。うみラボけんきゅう員の小松理虔です。台風ばっかりでやんなりますね。
さて、調べラボのレポートが2回分たまってしまいましたね。7月には海の日、そして8月も21日に「調べラボ」が行われていたのですが、すんませんすっかりいつもの筆無精が戻ってきてしまい更新が遅れました。申し訳ありません。海の日の調べラボは仕事で参加できず、写真も撮影できていないので、データのみになります。ですのでまずは8月の第15回「調べラボ」の模様を振り返りつつ、7月のデータも合わせてご覧頂きます。
調査の前に、まずは試食の紹介を。
今回の試食は、いわき市産のヒラツメガニを使ったカニ汁でございました。ヒラツメガニはですね、こっちではヒラガニといったり「エッチガニ」といったり、いろいろありますが、いわき市を代表するカニですよね。わたしが子どもの頃は、父が四倉港のそばに勤めていたので、よく買ってきては蒸したヒラガニにむしゃぶりついてました。昔は庶民派のカニでしたが、最近はちょっと高級に感じます。
味はですね、身もうまいんですが、やっぱりこのミソも肉も旨味が溶け込んだ「汁」がうまいんですね。ですからカニの肉をきれいに食べる人もいますが、多くの人は汁だけ飲んでいくようですね。ヒラガニは食べるのが面倒ですが、わたしはとにかく「殻ごと」噛み砕いて、うまく肉だけ食べて、殻を吐き出す食べ方です。あんまきれいな食べ方じゃないですけど、ヒラガニはこうして食べないとおいしく感じません。
それからこの回の調べラボは「サイエンス」色が濃くなりまして、マコガレイの頭から耳石を採取する体験コーナーが設置されました。カレイの頭から耳石を採取する体験コーナーがある水族館なんて世界広しといえどここくらいのものでしょう。耳石の鑑定は、福島沖の魚の状況を調べるのには欠かすことのできない作業です。いつもは富原せんせいにお願いしていて、その苦労を味わうことはありませんでしたが、けっこう大変なんですね(汗)
いやあ、耳石なんて採取しなくても、いやいや名前すら知らなくても、別に構いはしませんがね、放射性物質の計測における「年齢」の重要性を知ることができますし、こうしてしっかり「サイエンス」することで、魚に対する理解度が高まります。食育をテーマに掲げるアクアマリンふくしまらしい体験コーナーだと思いますね。意外に子どもたちにも人気でした。
―小名浜の泥は意外に線量高かった問題
さて、15回調べラボですが、本来は8月に原発沖の調査を行い、それで漁獲した魚を測るはずなのですが、8月は高波の影響で船を出せなかったんですね。このため、アクアマリンふくしまの富原さんが事前に取得していた「小名浜港の泥」と「サメ」のみの計測となりました。まずはその結果から。
※こちらの図をクリックすると計測データをまとめたPDFファイルに飛びます。
おおお、海底土は500Bq/kgですか。かなり高いですね。原発近傍の海底土はもう50Bq/kgくらいしか出てこないのに、その10倍とは…。意外に小名浜港って高いんですね。理由は、小名浜港の海底土が「泥」であるのに対し、原発近傍の海底土は「砂」だからということまではわかっているのですが、詳しくは富原せんせいの解説をば。
アクアマリンふくしまでは2013年から毎年、小名浜港の海底土に含まれる放射性セシウムを測定しています。2013年229Bq/kg、2014年289Bq/kg、2015年449Bq/kgとなっており低下の傾向は見られません。これは山から流れ出た泥が川と降って小名浜港に流れ込み堆積したためです。この値は外洋に面している東京電力福島第一原子力発電所前の海域の泥よりも高い値になります。小名浜港の海底土はヘドロで有機物を多く含む泥です。有機物に吸着した放射性セシウムは遊離しやすく生物に吸収されやすいのですが、小名浜港に堆積していく過程で放射性セシウムは粘土に吸着されてしまいます。粘土の吸着された放射性セシウムは魚にほとんど吸収されないので、高い汚染の割に汚染された魚は今はもう見つかりません。泥の中に住むマアナゴやヒトデ類、カニ類の放射性セシウムを調べてもほとんどが検出限界未満となります。
富原さん、大事なことしか言ってねえ。
なるほど、「海底の泥の放射線量が高い」=「魚の放射線量も高い」ではないということですね。これはまったくイコールではない。泥はセシウムをしっかり吸着してくれているため、魚の個体にセシウムが移行しないということですね。この傾向は、アクアマリンで行われた実験でも明らかになっています。皆さんも覚えておいて下さい。海底の泥はセシウムを吸着するから泥自体の線量は高いが魚には移行しない。これです。
続いてホシザメですが、あれ、サメって軟骨魚類だからセシウムを溜めやすいと聞いてましたが、意外にも低い値です。どういうことでしょう。
富原さんによれば、このホシザメは「90㎝を超えることから8歳以上だと思われます。軟骨魚類は放射性セシウムを排出しにくいので事故直後の影響が残っていたのかもしれません」のとのこと。影響が残っていて9Bq/kgと考えれば、かなり低いですね。つまり溜めやすいサメ、しかも震災前生まれのサメですら、このレベルにまで下がってきたということかと思われます。まだまだ海底の泥は高いんだけれども、魚の影響は限定的になってきたということが理解できるかと思います。
―第14回調べラボの計測データ
続いて、7月に行われていた14回調べラボのデータも紹介しておきます。14回調べラボでは、7月頭に行われた「第17回うみラボ」で採取した魚の線量を測りました。そうそう、この日、わたしは行けなかったんですが、爆釣だったんですよね。計測データ見て頂ければわかりますが、特にアイナメが爆釣でした。アイナメはまだ試験操業に対象になっていませんが、刺身、食べたいですよねえ、昆布〆にして。。。
はい。低いですね。
海底土の低さは、やはり原発近傍の海が「砂地」だからということです。ここで大事なのは、「原発から近い」=「近いほど海底は汚染されている」ということではないということ。いかに原発から近いといっても、海底土の性質を見なければならないということですね。小名浜の10分の1くらいの線量でした。低いんです。
さらに、昨今試験操業の対象に加えられたヒラメですが、原発直近の2kmで採取されたヒラメで9Bq/kgでした。10km離れたらN.D.。現在は20km圏内の漁は自粛されていますので、20km圏外はさらに低いものと考えられます。いずれにしても、原発20km圏外で漁協の基準値50Bq/kgを超える個体を見つけるのは難しいかもしれません。ただきこれ「原発港湾内」は何が起きるか分かりませんので、うみラボでも原発近傍のヒラメは今後も「主力品種」として計測していきたいと思います。
そしてですね、アイナメです。
オールN.D.です。これね、リストにすると有り難みが薄れますけれど、この計測のために、40cm近い良型のアイナメを21尾も計測に回してるんですからね。21尾ですよ。これ昆布〆にして刺身にしたら何人前だよ。こういう海の宝をすべて調査に回さねばならないというのは本当に悔しい。チクショウめ!
それにしてもアイナメも下がってきました。これは良い傾向です。これまでの調べラボで、アイナメは「震災後生まれの若い個体は浅場にいるので放射性物質の影響を受けやすい」と学んできました。しかし見て下さい。2km沖のアイナメ、オールN.D.です。データに一喜一憂すべきではありませんが、21尾のアイナメすべてN.D.なんですね。アイナメはさほど移動する魚ではないので、相馬やいわき沖のアイナメの状況は震災前とほぼ同じ状況に戻ってきているのではないでしょうか。
先日、ヒラメが試験操業の対象に入りましたけれど、なかなかその改善のニュースというのはあまり報じられません。しかし、被害を受けたことも重要ですが、状態が改善してきたことはもっと重要です。あれだけの被害を受けながら、やはり自然の回復能力というのはすごいものがある。おまけに資源量も回復してきているわけですから、受けた傷が深かった分、超回復が凄まじいということなのでしょう。
震災から5年半とはいえ、まだまだ「原発事故直後のイメージ」を持ってらっしゃる方も多いと思いますが、実際には状況は改善してきているわけです。ぜひこの記事、皆さんの「頭のなかの福島」のアップデートにお役立て下さい。
次回は、第18回うみラボの模様をお届けします。お楽しみに。