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第3回いちえふ沖海洋調査レポ(後編) – いわき海洋調べ隊「うみラボ」公式サイト
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第3回いちえふ沖海洋調査レポ(後編)

福島の海についてのいろいろなことを、まずはとにかく自分たちでやってみる。気になるところには実際に行ってみる。気になるものは実際に調べてみる。そんなDIY精神でレッツ海洋調査!

 

皆さんこんにちは、前回に引き続き、「うみラボ」けんきゅう員の小松です。

 

第4回のうみラボ海洋調査のレポート後半です。前回のレポートでは、福島第一原子力発電所沖での海底土の採取、それからサンプル魚の採取(釣り)についてレポートしましたが、今回は、採取した魚の放射性物質の計測の結果などについてお伝えしたいと思います。

 

計測にあたっては、アクアマリンふくしまの富原聖一獣医にご協力頂きました。改めて御礼を申し上げます。計測結果については、すでにですね、トゥゲッターのまとめや、参加者のツイッターでの発信でご存知の方も多いかと思いますが、今回のレポートではさらに改めて詳細にご紹介します。

 

―海底土を計測してみる

 

計測にあたりましては、こちら「NaIシンチレーションスペクトロメータ」を使用。このNaIはですね、放射性ヨウ素、放射性セシウムを簡便に計測できるということで、農産物の計測などにも幅広く使われてきた計測器です。パソコン上でリアルタイムに数値やグラフが動いていき、100Bq/kg超えるか超えないかぐらいなら数分で見ることも可能です。

 

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こちらがNaIシンチレーションスペクトロメータ

 

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マリネリ容器に海底土を詰めて計測に入る

 

まずは福島第一原発沖1.5キロのポイントで採取した海底土の結果です。

 

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セシウム137、セシウム134合計で233ベクレル/kgという結果でした。原発沖1.5kmという距離を考えると、想像していたより低い値ですね。

 

ちなみに前回の調査では417ベクレル/kgでした。今回はそれに比べれば低い値ですが、放射性物質は「移動」しますし、ホットスポットもどこにあるかわかりませんので、この数値をもってして「原発事故の被害は軽微だった」とは申しません。

 

ただ、水産試験場などの検査結果を見ると、当該海域の「海水」の放射性物質は、今回使用した「NaIシンチレーションスペクトロメータ」では測定できないぐらい低い値ではあります。また、農地の汚染が数千ベクレルであることと比較すれば、海底土の汚染のほうがかなり軽微であることがわかります。

 

「海底土が汚染されているのだから海水も汚染されていて、したがって福島の魚も汚染されているはずだ」と感じてしまう方も多いと思いますが、現場の数値からは「海底土は汚染されているが、放射性物質は海水にはほとんど移行しておらず、魚自体に与える影響は低い」という傾向が読み取れます。

 

続いて、福島第一原発沖2.5kmの海域で釣ったヒラメの計測に入ります。

 

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まず、簡易的な「仮検査」のため、ヒラメを5枚おろしにし、骨以外の4本のサクをラップで包み、底が平たい「V11容器」にギュっと押し込んで計測しました。

 

 

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アクアマリンふくしまの富原せんせいが手際よく5枚に下ろし

 

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仮測定のためV11容器につめて計測。その後本測定をしている

 

本来は、計測の精度を高めるため、身をすり潰して計測すべきなのですが、「計測して安全ならば食べよう」という参加者もいたため、「サク」の状態で短時間の “仮計測” をしています。すり潰しちゃうと刺身じゃなくなっちゃいますから。そしてさらに後日、マリネリ容器で本測定を行っており、以下の結果は本測定の結果となります。

 

さて、測定結果です。

 

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ヒラメA 全長65cm/体重2421g
セシウム137 16.3Bq/kg
セシウム134 N.D.
セシウム合計 16.3Bq/kg
という結果でした。

 

セシウム134が不検出となっていますが、富原せんせいによれば、「セシウム134は、現場の割合から137の半分より少し低いほどと考えられるため、合算で25Bq/kg前後になるのではないか」ということでした。

 

20140731200301

 

ヒラメB 全長56cm/体重2100g
セシウム137 101 Bq/kg
セシウム134 37.2 Bq/kg
セシウム合計 138 Bq/kg

 

 

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ヒラメC 全長58cm/体重2000g
セシウム137 16.4 Bq/kg
セシウム134 7.33 Bq/kg
セシウム合計 23.8 Bq/kg

 

ということで、ヒラメBはセシウム合計で138ベクレルと、国の基準値を超える高い値が計測されました。ヒラメCは23.8ベクレルでしたが・・・うーん、やはりヒラメという魚は「個体差」があるということでしょうかね。

 

ヒラメの傾向として、50cm以上の大型のものは、原発事故時にすでに成魚になっていたと考えられ、事故直後の汚染水の影響を受けた可能性が高いと言えます。これに対し50cm未満のヒラメは、震災時産まれてないか幼魚であり、放射性物質がすでに希釈された海で育っていますので、個体差はあるものの多くの個体がNDという結果になるようです。

 

今回、3尾(いずれも50cmオーバー)のうち2尾は、国の基準値を大きく下回る結果が出ました。原発直近の海域ですし、ヒラメは「底魚」ですので、「こりゃあ高い値が出るだろうな」とは思っていましたが、3尾中2尾が20ベクレル程度だったのは意外でした。

 

富原せんせいによれば、ヒラメは主にイワシやアジなど小魚を食べる魚で、一箇所にとどまらず餌を追いかけて移動しているそうです。さらに、その餌となる小魚のほとんどが震災後産まれた魚であり、なおかつ広い海域を回遊する魚であるため、大型のヒラメの多くは、ここ2年あまりこうした小魚を捕食し続けた結果、汚染が抜けていったのであろう、とのこと。

 

一方で、ヒラメBのように「抜け切らない」個体もあるわけですよね。震災直後の大量の汚染水の影響を受けたものと推察されます。このような100ベクレルを超えるようなヒラメは今でも「100尾測って数尾程度」は見つかるようです。ヒラメがまだ試験操業の対象にならないのも、このあたりの事情を勘案してのことなのでしょう。

 

100ベクレルを超える個体が出てしまったことについて、うみラボ計測アドバイザーの津田せんせいにお話を伺うと、、、

 

最初は一匹目のヒラメが拍子抜けするほど低かったことに驚きましたが、それより小ぶりだった2匹目のヒラメが基準値を超えてしまった現実に直面すると、やはりまだまだ油断は禁物のようです。しかし今回の3匹のヒラメを総合的に見ると、やはり想像以上に低いですね。決して悲観することはなく、将来的に大きく希望の持てる状況のように思います。ヒラメに関してはもう少し数を増やせば大まかな傾向は確定できそうですので、あとは他の魚種についても調べていきたいですね。

 

という前向きなコメントを頂きました!!

 

―では50cm未満なら絶対安全なのか問題

 

さきほども少し触れましたが、これまでの水産試験場の調査などから、50cm未満のヒラメであれば、震災時には生まれていないか稚魚だったため、震災直後の汚染水の影響をほとんど受けていないことがわかっています。

 

しかし、ヒラメは「個体差」がある魚種ですので、「小さければ100%安全」というわけではありませんし、逆に、震災後産まれたヒラメなのであれば、「事故直後の影響」はなくとも、「現在の福島第一原発近隣の環境からの影響」が読み取れるかもしれません。

 

ううん。やはり「決めつけ」がよくないということですね。魚種が同じでもこれだけ状況が違うわけですから、「福島の魚」と一括りにしていては状況がまったくわからないということなんです。安全性が確認されたものもあれば、ちょっとまだ確定はできないなって種類もある。ってなわけで、今後も継続して調査していかないといけないなあと改めて感じた次第です。

 

―アイナメを測定

 

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アイナメ 2個体平均全長319mm / 体重443.4g
セシウム137 N.D.
セシウム134 N.D.
セシウム合計 N.D. (検出限界76.9ベクレル)

 

こちら、両方とも計測に必要な大きさ(筋肉で500g)に満たなかったため、2匹分の筋肉を使って計測しています。さらに「仮測定」であり、測定時間も24分と短めです。ですから検出限界が76.9と高いです。時間をかければかけるほど検出限界の値も小さくなり、それだけ精緻な数値が出てくるのですが、富原せんせいに確認したところ、スペクトルの形などから「かなり低め」であることが予想されましたので、24分で計測を終わっています。

 

要するに、「何ベクレル入っているか」よりも、「国の基準値以下であることがわかればよい」という目的で計測をしたということです。ここはご注意ください。

 

なぜ「仮測定」かというとですね、本来、食品の放射性物質を計測する際は、均質にするために「すり潰して」計測するんですが、すり潰してしまうと「刺身で食べられない」のですよ。ですので、サクの状態で「仮計測」をして、少なくとも国の基準値以下であればそれを食べようと、そういう主旨での「仮測定」なわけです。

 

もちろん、うみラボの活動の主旨は「食べよう」ではありません。ともかく今回は「釣って測ろう」という主旨です。でも、測った結果「基準値以下なら食べたい」という声は否定できませんし、同様に「食べない」という選択ももちろんアリです。食べるか食べないかは、あくまで参加者の皆さんに判断を委ねるというのがうみラボのスタンスです。

 

常磐沖のアイナメといえば、日本で一番ウマイと言いたくなるくらいの代物でして、実際に築地などでも高値で取引されていました。震災後、これだけ長い間、常磐沖のアイナメを食べられなかったわけですから、「安全だったら食べたい」という声は理解できます。

 

それでも原発沖で釣ったアイナメですので、「ヤバいんじゃないか」と思う方も多いと思いますが、今回計測したアイナメが両方「小さい」ということが大事なカギです。前回の調査でも触れてますが、30センチ程度のアイナメであれば、震災後に生まれた個体であると想定され、「放射性物質を体内に取り込んでいる可能性は低い」ことがこの3年あまりの調査でわかってきています。

 

ふくしま新発売などに掲載されたモニタリング調査の結果からも、100ベクレルを超えるようなアイナメの個体は極めてレアな状況になっています。今回のアイナメも①体が小さい、②仮測定でN.D.だった、この2点から「大丈夫」と判断して刺身で食べた方がいらっしゃった、ということです。

 

やはり、自分たちで釣って、それを自分たちの目の前で測るという体験が大きいのかなと。それに、信頼できる方が調査や測定について事細かに説明をしてくれるのがやはり大きい。ですから私たちは目の前の数値を「納得」できるわけです。

 

前回のレポートでもお伝えしましたが、今回釣り上げたヒラメ1匹から138ベクレルのセシウムが検出されました。ですので、「福島の海は安全!」などとは言えません。さまざまな関係機関から、モニタリングの調査の結果も公開されていますが、まだまだ慎重に調査を続ける必要があると感じています。

 

とはいえ、少なくとも一括りに「福島のヒラメは危険」という状況でないことはわかりました。大きさや生態によって個体差があるということです。これがわかっただけでも大きな収穫でしたね。

 

うみラボはシロウトの集まりではありますが、調査を重ねるほどに知識がついてきていることを実感します。今後も、さまざまなクロウトの方の力をお借りしながら、福島の海のことについて自分たちで調べ、自分たちで発信していきたいと思っています。

 

次の調査もさっそく予定が決まってきました。調査の模様は、またこちらで。

小松けんきゅう員
小松けんきゅう員

うみラボけんきゅう員。釣るよりも食べるほうの専門。