第7回いちえふ沖調査メバルアタック
みなさんこんにちは。うみラボけんきゅう員の小松です。
昨年11月の第6回を最後に海洋調査はいったんお休みし、けんきゅう員の八木を中心にした「釣り計測」を続けて参りましたが、つい先日の3月15日、4月以降のうみラボの活動方針を決めるための「試験調査」に行ってきましたので、その試験調査の結果も含めてレポートいたします。
※このうみラボ調査は、あくまで独立した有志団体による「独自の調査」ですので、出荷規制や試験操業の判断基準になることはありません。国や県の調査とはまったく関係なく「自主的に」行われております。それをふまえたうえでお読みください。
久之浜漁港を出発して北に1時間ちょい。途中、広野火力発電所、福島第二原子力発電所を通過し、福島第一原子力発電所に到着します。この日も粛々と作業が行われていました。ハッキリと目に見える変化はないようにも思えますが、しかしながら廃炉のための作業は続いています。改めて、現場で作業にあたる皆さんの無事の作業を祈ります。
そしてやはり気になるのが汚染水問題。第一原発の排水溝から高濃度の放射性物質を含む水が外洋に漏れ続けていながら、東電は10ヶ月近く公表せずに何の対策も講じていなかったことが先月報じられています。東電への不信感がますます募るわけですが、日々漏れ出ている汚染水が外洋にどのような影響を与えているのか。やはり実際に調べてみるほかありません。
そこで、今回の獲物は「メバル」です。
メバルとは。▶日本の北海道南部から九州、朝鮮半島南部に到る海域に分布し、海岸近くの海藻が多い岩礁域に群れをなして棲息する。カサゴのように底にとどまらず、岩礁付近を群れて泳ぎ回るが、垂直に切り立った岩場に沿ってホバーリングするように立ち泳ぎすることもある。岩礁の間から温泉が湧き出ている海域では、温泉の上に集まって立ち泳ぎする姿も見られる。食性は肉食で、貝類、多毛類、小型の甲殻類、小魚などを捕食する。(wikipediaより)
なぜメバルかというと、比較的沿岸で泳ぐ魚で、しかもあんま移動しない魚なんですね。ですから、原発1〜2kmあたりの海域を泳いでいるメバルは、長期的に汚染水の影響を受けているとも言えます。やはり原発事故直後から「高い魚」の代表格のような魚でしたし、メバルの動向を継続調査することで、何らかの兆候や傾向を読み取れるのではないかと考えたわけです。
ところがね、皆さん、魚って1年中いっぱい釣れるかってーと、そうじゃないんです。
メバルは「春告げ魚(はるつげうお)」と呼ばれることもあるように、冬から春にかけて釣りシーズンを迎える魚なんですね。基本的には高水温を嫌う傾向があり、水温が15℃以下になる頃から水深の浅い場所でエサを穫るのだそうです。我々はそれを狙おうっちゅうわけです。
実は、福島のメバルといえば、釣りファンの人たちからはとても有名でした。釣り人口の多い関東などではすでに大型のメバルは数が減っているため、30cmを超える「尺(しゃく)メバル」を目指して、多くの釣り人が福島の釣り船に乗ったそうです。
メバル釣りに用いられるのが「サビキ」と呼ばれる、針がいくつもついた仕掛け。1~3メートル程の幹糸に3~12本の釣り針が木の枝のように付けられていて、その針にアミエビを模したビニールや魚の皮、鳥の羽などを巻きつけるそうです。魚がこのハリをエサと間違えて食いつくのだとか。
まあ、わたし詳しくはわかりませんけれども、ようはそのたくさんの針にいくつものメバルが一気に食いつき、弓なりにしなった竿を少しずつ引き上げていくところに、メバル釣りの醍醐味があるんだそうです。
さて、調査です。
本来はやはり原発1.5km沖くらいでトライしたいのですが、今の時期は水温が冷たすぎて原発直近にはまだ群れが来ていないようで、今回は原発からおよそ10kmほど沖の海域で釣りをしています。今回はあくまで「試験」ととらえ、水温の上がる4月以降、改めて1.5kmあたりのポイントを狙いたいと思います。
では、興奮を抑えつつ、粛々と釣りがスタート、の途端、爆釣!!
すげえ、メバルだ。数珠つなぎで!! 30cm近い尺クラスがしっかりと釣れていきます。1本の竿に4尾も5尾もくっついてくるんですよ。私、海釣りはほとんど経験がないんですけれども、この重み、そしてこの興奮はやはり調査とはいえ禁じ得ないものがありました。いやあ、これはすごい。
これが、釣り人が羨む「常磐の尺メバル」。かなりゴツい。
漁業資源の回復を実感する瞬間でした。試験操業とは事実上の「資源管理漁業」です。漁の自粛が続いている間に、メバルは大きく成長し、数も増えてきているのです。しかし、メバルはまだ試験操業の対象にはなっていないという現実があります。悔しいですね。ほんとうに。
メバルが解禁されれば「常磐の尺メバル」を目指して釣り人はかならず戻ってきてくれる。そこで、穫り尽くさないよう数を制限した上で釣りを楽しんでもらう。そんなサステナブルな釣りを福島から発信・啓蒙できるのではないか。そんな妄想も頭の中をかけめぐりました。
やはり、実際に釣るという「身体的行為」を通して得られる実感というものは、なんと言うか「百聞は一見に如かず」的な説得力があるんですね。釣りの「楽しさ」を感じつつも、やはり一方では「悔しさ」もある。簡単には割り切れない感情を、船の上で共感、共有することも大事なんだと思います。
なにはともあれ、海は豊かですね。
さて、今回釣り上げたメバルですが、アクアマリンふくしまに持ち込み、放射性物質の検査も行っていますので、まずはこちらで結果をお知らせします。
まずは平均全長29.4cmの「尺メバル」。1尾だけでは計測に足りないので、3尾分の筋肉を使って計測しています。そして2番目のデータが小さめ(それでも25cm近い)のメバルを5尾使ったもの。この2つのデータで、メバルの動向を見ていきます。
尺メバルが「11.2Bq/kg」、そして小さめのほうがなんとN.D.という結果でした。メバルといえばまず「線量が高い」イメージがありましたので、正直このデータには驚きました。もちろん釣り上げたポイントが「少し沖合」ということもあろうかと思うのですが、低いですね。計測をお願いしたアクアマリンの富原獣医は、次のように解説しています。
先日のニュースで、メバルの濃度は加齢と関係するという福島大学環境放射能研究所の報告が報道されていました。20年ほど寿命があるメバルは、震災後に流された汚染水の影響が最も残っている魚です。メバルの30cmは10歳以上、25cmは5歳以上と推定されるので双方ともに汚染水の影響を受けていたと思われますが、年齢が若いほど代謝が高く、放射性セシウムの排出が早いので、大きいほうは11.2Bq/kg(Cs134はN.D.)、小さいほうはN.D.という結果にも反映されているのかなと思います。
ただ、今回のメバルは拍子抜けするほど低いです。いろんな場所で原発前のメバルのデータを見てきましたが、5歳以上の個体は200~400Bq/kgほどあるという認識でした。ちょっと改めなくてはならないですかね。今回、低かった要因は原発前の海域でメバルが釣れるポイントが水深40~50mの深場であったことが影響したのだと思われます。原発の前でなくても、汚染水が流れたルートで、もう少し浅いポイントを探して釣れば、また違った結果になるのかもしれません。
なるほど。
尺メバルは10歳以上、つまり成長しきったメバルなんですね。したがって代謝のスピードも遅く、排出がなかなか進まないため、比較的高めになると。一方25cm以下は5歳〜と若く、代謝のスピードが速いため、排出が進んでいるのだそうです。
ヒラメのときもそうでしたが、個体の体長=年齢を見ることで、原発事故時に大人だったのか、あるいは生まれていなかったのかを知ることができました。同じ魚種でも、汚染の傾向が予測できるということですね。メバルにも年齢によって汚染の状況を予想することができそうです。これがわかったことは、うみラボとしても大きな収穫です。
しかし、富原先生がおっしゃるように、今回釣ったポイントは深場であり、浅場であれば汚染された個体が釣れるかもしれませんから、今回のデータをもってして「メバルももう安全じゃね?」などということは絶対に言えません。やはり継続して調査していくことが大事ですね。
メバルは、水温が高くなりすぎてしまうといなくなってしまうため、6月くらいまでが釣れる時期だとのこと。これに合わせてうみラボも、4月〜6月は集中してメバルを狙い、その汚染の状況を確認してみたいと思います。さらに「釣り」を拡充せねばなりませんね。
4月もがんばってレポートしたいと思います。